子ども食堂には、食事だけでなく、いろんな人の想いが集まります。でもその場で気づくのは、「話し合いができない大人」が少なくないということ。感情的にぶつかったり、相手の言葉を最後まで聞かずに遮ったり、思い込んで悪口を言ったり、身に起きたことをすべて人のせいにする人、話が分からなそうと思ったらひいてしまうと言って議論から逃げる人…
その背景には、以下のような要因があると考えられます。
1. 語彙力・表現力の欠如
2. 傾聴力の欠如(人の話を最後まで聞けない)
3. 自己認識の低さ・内省力の弱さ
4. 認知の歪み(白黒思考)
5. 批判=攻撃と捉える心理的防衛
6. 対話の経験不足
あたたかいごはんと一緒に、あたたかい言葉が飛び交う場でありたい。
ハラクッチーナは、そんな“話せる地域”を目指して活動を続けています。
今回は、「なぜ議論ができない大人が増えているのか」について、研究や理論を交えて解説していきます。
1. 語彙力・表現力の欠如
まず挙げられるのが、「伝えたいことを言葉にできない」という問題です。
語彙が乏しいと、複雑なことを表現できず、結果的に感情的な言い回しに頼りがちになります。
国立国語研究所の調査でも、成人の語彙力には個人差があり、学習の機会が少ないほど言語的表現が限定される傾向があるとされています。
2. 人の話を最後まで聞けない
議論とは「話す」だけでなく「聞く」ことが前提です。
しかし、相手の話を遮ったり、すぐに反論しようとしたりする人は少なくありません。
心理学者カール・ロジャーズは「自己防衛的な人ほど、他者の言葉を受け入れにくい」と指摘しています。自分を守るために他人の話を拒絶してしまうのです。
3. 自分を客観視できない
議論には「自分の考えを整理し直す力」「間違いを認める柔軟さ」が必要です。
しかし、自分の考え方に固執する人は、他者と対話するのが難しくなります。
ハーバード大学の研究でも、「自己のメンタルモデルを持ち、それを問い直す力」がなければ、人は対話的に成長できないとされています。
4. 思考の極端化(白黒思考)
「それは正しい・間違っている」「敵か味方か」といった二極化された思考は、議論を壊してしまいます。
認知行動療法でも、「全か無か」「極端な一般化」は、人間関係に悪影響を与える認知の歪みとされています。
5. 批判を「攻撃」と捉える心理
意見の違いや指摘を、すぐに「否定された」「攻撃された」と受け止める人も、建設的な議論ができません。
これは、自己評価が不安定な人や、心理的に安心できていない場で起こりやすい現象です。心理的安全性が確保されていない場では、意見表明そのものが困難になります。
6. 議論の経験そのものが少ない
日本では、学校でも職場でも「対話で合意を形成する訓練」が不足しています。
「空気を読む」「波風を立てない」ことが美徳とされてきた背景があり、議論=トラブルと捉えて避ける人も多いのです。
中根千枝氏の『タテ社会の人間関係』でも、日本では上下関係を重んじるあまり、対等な意見交換の文化が根付きにくいことが指摘されています。
【まとめ:議論できない大人の主な要因】
要因カテゴリ | 内容 | 参考理論・研究 |
認知的要因 | 語彙力不足・二元論思考・内省力の欠如 | 国語調査、Beckの認知行動理論 |
心理的要因 | 傾聴力不足、防衛的態度、自己評価の不安定さ | Carl Rogers、Amy Edmondson |
社会的要因 | 対話経験の不足、日本的上下関係文化 | Kegan & Lahey、中根千枝 |
どうすれば議論できる大人になれるか?
- 「議論=勝ち負け」ではなく、「相互理解」と捉えること
- 相手の立場や考え方を一旦受け入れてみること
- 小さな場からでも「話し合い」の経験を積み、対話の文化を育てていくこと
私たち大人が「話し合える力」を取り戻すことが、子どもたちの未来にもつながっていきます。
今こそ、耳を傾ける力、言葉にする力、そして向き合う勇気を、共に育てていきましょう。